人生は自由になるか?
先日、横浜市の男女共同参画推進協会30周年記念イベントにお声がけいただき参加しました。
テーマは、「男女共同参画の未来図 2025~ワタシが変える、地域が変わる」
なぜ、2025年なのかというと、この時期に今の団塊世代が後期高齢者となり、少子化も加速。労働力の減少と構造的な人材不足、家族形態の変化による地域社会や人々の意識の変化などが予測されるからだそう。その中で誰もが孤立する可能性があるなか、地域のセーフティネットをどうつくるのか、多様化する人々のニーズに合わせ、働き方やライフスタイルはどう変わっていくのか/変えていくのかを考える、ということで私がこのサイトに掲げている人生100年時代と共通の課題でもあり興味津々で伺いました。
パネルディスカッションの冒頭に、当日のスピーカー&モデレーターの江原由美子さん(横浜国立大学都市イノベーション研究院教授)が示してくれた人口統計や就業率の変化についてなどのデータの中で、私も初めて見る衝撃的なものがありました。
世界価値観調査で、調査対象である60ヵ国の平均点の結果を比較した時に「人生が自由にならない」と考える程度(10段階の評価)について日本人が世界で最高だという結果です。こちらの「社会実情データ図録」のリンクをご覧いただければと思います。
経済的には豊かなはずの日本でこんなに「人生が自由にならない」と考える人が多いとは、なにやら不可解ですが、おそらく、私の解釈では(リンク先の解説とも少し違っていて)国や組織やパートナーに頼っていれば生きる糧には困らない反面、それらの枠をはみ出してはいけない、という制約や縛りを感じているのかなあ、と思います。
でも、すでに国も組織も、なんならパートナーも昔ほど揺るぎない存在ではないんですけどね。
パネリストは、アフロヘアで有名な元新聞記者の稲垣えみ子さん、横浜で認定NPO法人あっとほーむを運営されている小栗ショウコさん、イケア港北店人事部長の小幡浩之さんとそれぞれ専門分野は異なるものの、それぞれ興味深いお話が聞けました。あんまりその場でメモを取れなかったのですが、記憶を頼りに備忘録として書きますね。
稲垣さん:日本の経済は縮小しているけれど自分の老後のことは全く心配ではない、というと「お金あるんでしょ」といわれるけど、まあちょっとはあるけどそれだけではなくて、50歳で新聞社をやめてフリーになり、自分史上最狭の風呂なしアパートに引っ越したけれどむしろ豊かになれた。徒歩3分の銭湯に行くのは風呂場まで3分かかる豪邸に住んでいるようなもの。自分の身の回りを「チーム稲垣」だと思っていて、気に入ったお店にお金を落とすことで自分も相手も豊かになっていく。リアルなつながり、支え合いがあればなんとかなると思っている。
小栗さん:一般的な保育園ではカバーできない夜間保育・学童のサービスを提供している。親たちは夜間保育に預けてまで働くべきかとても悩むことが多いけれど、それで毎日の子育てが楽になり、働くことが辛くなくなれば、次世代の子どもたちが子育てしながら働く、という選択しをポジティブに捉えられるようになる。「子どもが小さいうちは母親が育てるべき」というプレッシャーから自由になることでママたちに笑顔が生まれるし、あっとほーむでは「親が一生懸命仕事してるってすばらしい」って伝わるようなサポートをしているので、子どもたちもかわいそうではない。このビジネスモデルを拡大するのではなく、それぞれの地域で根付くようスケールアウトしていく。身近な人と背中を押し合える、そんな関係性が育つような場づくりを心がけている。
小幡さん:イケアは全従業員の正社員化を行っている。短時間勤務であっても社会保険に加入できボーナスもあるので、扶養の範囲にこだわる人はむしろ離脱してしまったけれど、フリーランスの仕事と合わせて複業している人、子育てや介護と両立をはかる人などにとっては働きやすい環境ができている。社内にはキャリアを上にだけ進むはしごと捉えるのではなく、ジャングルジムのように上がっても降りても、平行に移動しても良いという考えがある。そういう考えの中、一人ひとりの社員が自分ごととして意見を出してくれるようになってきた。現状は定年は60歳、再雇用で65歳まで延長可能だが、間もなく実際に65歳を迎えるスタッフがいて、とても優秀なのでその方が働き続けられるようにして欲しいという声が現場で上がり、さらに70歳まで延長するため今動いているところ。
私自身も、常々100年ライフを生きていくためには既存の価値観を変える必要がある、有形資産(お金やモノ)だけではなく、無形資産(コミュニティや社会に必要とされるキャリアやスキル、心身の健康)が大事、とお伝えしていますが、このイベントでは具体的なコミュニティやスキルの育て方が聞けて嬉しく思いました。
そして、何より強く感じたのは「ひとりひとりが行動する」ということ。
国や行政、組織やパートナーに変わってもらうことを期待するばかりではなく(もちろん良い変革はありがたいですが)自分でもアンテナを張り情報を集め、自分の考えを元に行動に移す小さな一歩が大事なんだ、と思いました。
最後にとても印象深かったこと。
質疑の時間にこんな話をした方がいました。稲垣さんと同世代で転勤でこちらにいる女性、独り身でとても寂しい。近所のおばあちゃんと挨拶を交わしたりしているのだけれど、先日あまりに寂しくて、背中をさすってもらった…質問というよりは感想というかつぶやきみたいな感じだったのですが、それに対して稲垣さんが「そのおばあちゃんはあなたを支えたことで、自分も誰かの役に立てていると感じ、支えられたのではないでしょうか」に思わず拍手してしまいました。その拍手は会場に広がり、とても温かな空気になりました。
自分の住むまちの人々とこのような時間を共有できたことがとても幸せに思えました。